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2025.12.16

暗黙知を資産に変える!中小企業のための形式知化IT戦略

更新日:2025年12月23日

はじめに:暗黙知は「最大の資産」であり「最大の経営リスク」

中小企業にとって、長年培ってきたベテラン社員の持つ「暗黙知」(ノウハウ、経験、判断基準)は、企業の競争力の源泉であり、最大の資産です。

しかし、同時にこれは「最大の経営リスク」でもあります。
なぜなら、そのベテランが退職や長期休職、あるいは配置転換した瞬間に、数十年かけて築かれた知識は一瞬で失われてしまうからです。

システムの導入によって業務が効率化されても、この「知識の属人化」が解消されなければ、企業は常に人材リスクに晒され続けます。

今回は、この貴重な暗黙知を会社の「形式知」(誰でもアクセスできる知識)に変え、ITと組織戦略を組み合わせ、持続可能な企業資産として残すための戦略をご紹介します。

1. 形式知化が失敗する2つの大きな壁を理解する
多くの企業が「ナレッジ共有」のために社内Wikiなどを導入しても定着しないのは、以下の2つの壁を乗り越える「戦略」が欠けているからです。

① 入力負荷の壁:「書く」のが面倒
ノウハウを持つベテランほど、自分のやり方を言語化し、体系立てて文章にするのが苦手、あるいは面倒だと感じます。
「詳細なマニュアルを作ってください」という依頼は、多忙な現場では形骸化の原因となります。

② インセンティブの壁:「公開するメリット」がない
知識を公開した本人に直接的なメリット(評価、給与、時間の創出)がなければ、「なぜ苦労して得たノウハウを無償で公開しなければならないのか」という心理的抵抗や、存在価値の喪失不安を生んでしまいます。

2. 【IT活用戦略】入力負荷を劇的に下げる3つの方法
ITツールはあくまで「手段」です。ベテランの指を動かさず、知恵だけを抽出する仕組みを構築します。

① 音声/動画の積極活用:「書く」を「しゃべる/撮る」に変える
ベテラン社員に、マニュアルを「書く」のではなく、「しゃべる」または「撮る」という作業に切り替えてもらうことで、心理的ハードルを下げます。

具体策: 業務手順をスマホで撮影しアップロードする。会議の録音をAIに文字起こしさせる。

最新事例: 2025年9月にリリースされたQastの『AIナレッジインタビュー』機能では、AIアバターとの音声会話により自動的にナレッジが文字化され、入力時間を大幅に短縮できます。

② 既存ツールからの自動収集・連携
現場が日常的に利用しているツールから、自動で知識ベースを構築します。

具体策: チャットの回答履歴、プロジェクトの議事録、過去のメール履歴をナレッジマネジメントシステム(KMS)に連携させ、検索対象に組み込みます。

KMS:社内の知識を蓄積・検索する仕組み

③ AIによる入力アシストとテンプレート化
断片的な情報から、AIが形式知のテンプレートを自動生成します。

具体策: キーワードや箇条書きを入力するだけで、AIが過去の成功事例を参照し、整った文章構造を提案・補完します。

3. 【組織戦略】ベテランが「喜んで教えたくなる」3つのメリット
ノウハウの公開を、ベテラン自身が「自分のためにやりたい」と思えるインセンティブとして設計します。

① 圧倒的な「時間創出」:同じ質問からの解放
これがベテランにとって最大のメリットです。
AI検索エンジンを導入し、知りたい情報が「ベテランに聞くより10秒早く見つかる」状態を作ります。

効果: ルーティン化した初歩的な質問や後輩指導に忙殺される日々から卒業し、本来持つ高度な判断や創造的な業務に集中できる時間を得られます。

② 貢献度を正当に評価する仕組み
単なる記事数ではなく、その「質」と「他者への貢献度」を評価に連動させます。

具体策: 記事の閲覧数、「役に立った」ボタンのクリック数、フィードバックによる改善回数をKPI(評価指標)として人事評価や昇給の基準に組み込みます。

③ 心理的報酬:感謝の可視化とキャリアの永続化
形式知化はベテランの価値を奪うものではなく、その知見を「会社の歴史」として刻む作業です。

効果: 自分のノウハウによって助けられた後輩からの感謝が見える化されることで、モチベーションの維持と、組織内での「レジェンド」としての地位確立に繋がります。

結論:知識の資産化は、企業を未来に残す確実な投資
暗黙知を形式知化することは、単なる情報の整理ではありません。
それは、採用・育成コストを下げ、企業の持続性を向上させ、次の10年を生き残るための最も確実な投資です。

ITを単なる記録ツールではなく、「入力負荷を下げ、動機づけを行い、社員の時間を創出する戦略ツール」として活用し、貴重な知識を未来の資産として残していきましょう。

次のステップ:戦略を「実行」に移す
この記事を読んで、形式知化の重要性を理解された経営者や担当者の方へ。
最も難しいのは「最初の一歩」です。

次は、この戦略を現場に落とし込み、「失敗しない形式知化を定着させるための最初の一週間」というテーマで、具体的な行動計画をご紹介します。


【参考資料】
・富士フイルム「SECIモデルで暗黙知を活かす」
・三菱総合研究所「匠AI」
・Qast「AIナレッジインタビュー」
・経済産業省「技術継承に関する調査」

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知識の形式知化とAI活用について:

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