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2025.12.01

暗黙知から形式知へ:自社の「頭脳」を作る生成AI活用法

私は以前、AI導入は「AIそのもの」以外の部分で挫折するというお話をしました。
今回は、その中でも最も地味で、最も重要な課題である「ナレッジ(知識)の壁」について掘り下げてみます。

多くの企業が生成AIを社内で本格的に取り入れようとしても、「あまり役に立たない」「せいぜい、メール文面作成や営業スクリプトの作成に留まる」という現実に直面しています。

なぜ、これほど高性能なAIが、社内では力を発揮できないのでしょうか?

1. 生成AIの致命的な限界:「社内情報の欠損」
生成AIが活用できるタスクには明確な限界があります。
それは、AIの知識源が一般論やWeb検索で得られる情報に偏っているためです。

例えば、一般的な契約書のドラフトや業界のトレンドを尋ねればAIは得意ですが、「過去のプロジェクトの進め方」や「特定の顧客への請求ルール」など、企業の核となる社内情報が必要なタスクには、一切答えられません。

なぜなら、AIは社内情報を知らないからです。

2. 知識の正体:水面下の「氷山」をどう引き上げるか?
この「社内情報の欠損」という技術的な壁を破るには、まず「知識とは何か」という哲学を理解する必要があります。

知識を氷山に例えるなら、水の上に見えている部分(形式知)は、マニュアルやデータといったごく一部です。
しかし、水面下に隠れている大部分(暗黙知)は、個人の経験や勘に基づくものです。
企業で最も価値があるのは、この「暗黙知」であり、これが形式知化され生成AIに取り込まれない限り、生成AIの恩恵は受ける事ができません。

氷山のメタファー

■SECIモデルで知識を進化させる
この暗黙知を形式知に押し上げ、AIの燃料に変えるための戦略が、SECI(セキ)モデルという知識創造のスパイラルです。

一般的に私たちは、以下のプロセスで知識を形式知化していると言われています。

① 共同化: 経験を共有する(会話、OJT)

② 表出化: 経験を言語化・図式化する(文書、マニュアル化)

③ 連結化: 形式知を組み合わせて新しい知識にする(データベース化し共有、ルールの統合)

④ 内面化: 体系化された知識を個人が習得する

そして、再び① 共同化へ戻る。

このSECIモデルのスパイラルを繰り返すことが、組織の知識をAIが使える資産に変えるための、最も地道で、最も重要なDXとなります。

SECIモデル

3. AIに社内知を語らせる「RAG戦略」
SECIモデルで形式知化された知識は、最新の技術であるRAG(Retrieval-Augmented Generation)として生成AIに順次取り込むことで、生成AIを社内情報にアクセスさせる「頭脳」に変えることができます。

RAGとは: 外部の知識と切り離し、社内の専用データだけを参照して回答する仕組みです。

その結果、社員は「過去のプロジェクトのノウハウ」や「特定の顧客への請求ルール」など、社内に関する質問を生成AIに投げかけ、瞬時に回答を得られるようになります。

4. 未来の競争力は「知識創造の文化」が握る
AI時代において、企業の競争力は「AIツールを持っているか」ではなく、「どれだけ早く、組織の暗黙知を形式知化し、AIに学習させられるか」という知識創造の文化にかかっています。

この地道なナレッジマネジメントの推進こそが、生成AIを単なるツールではなく、企業の未来の価値を生む戦略資産に変える強力な自社の頭脳となります。

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