失敗しない形式知化!定着のための「最初の一週間」行動計画

初回公開日:2025年12月23日
まず最初に、これらの手法は、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱した『SECIモデル(知識創造理論)』に基づいており、多くの企業で実証されている内容です。
実際、製造業において、熟練工のノウハウを標準作業として形式知化し、組織全体で共有する取り組みが広がっています。
このアプローチにより、技術継承や品質の安定化が期待できます。
前回の記事では、個人のノウハウ(暗黙知)を組織の資産(形式知)に変えることが、中小企業にとって強力な武器になるというお話をしました。
前回の記事:https://trans-it.net/news/post_122.html
しかし、いざ「マニュアルを作ろう!」と号令をかけても、現場からは「忙しくて無理です」と反発されたり、結局誰も更新しなくなったりした経験はないでしょうか。
実は、形式知化が定着するかどうかは、最初の一週間の「ハードルの下げ方」ですべてが決まります。
現場を動かし、習慣化させるための4つのステップをお伝えします。
1. 「100点のマニュアル」という幻想を捨てる
形式知化が失敗する最大の原因は、最初から「誰が見ても完璧なマニュアル」を作ろうとすることです。
これでは書く側も身構えてしまい、一歩も進みません。
最初の一週間、徹底すべきは「箇条書きのメモでいい」と許可を出すことです。
・手順を清書する必要はない
・自分が忘れないための「備忘録」でOK
・共有ツールに一行でも書き込んだら、まずは100点
まずは「きれいに書くこと」ではなく、「頭の外に出すこと」への心理的障壁を地面まで下げるのが、最初の一週間のゴールになります。
2. 「一箇所だけ」を完璧にコピーしてみる
全てを一度にマニュアル化しようとするのも失敗の元です。
最初の一週間は、「誰がやっても絶対に同じ結果になる、ごく小さなルーチン」を一つだけ選んで試してください。
例えば:
・PCの初期設定(3ステップ)
・月次売上レポートのExcel出力(5クリック)
・来客時のお茶出しの手順(4ステップ)
それを誰か一人が書き、別の人がそのメモだけを見て作業してみる。
そこで「ここが分かりにくいね」と会話が生まれることが、形式知化が「ただの作業」から「組織の文化」に変わる瞬間になります。
3. 「書く時間」を立派な仕事として正当に認める
社員がマニュアルを書かないのは、サボっているからではありません。
「書く時間があるなら実作業をしろと言われるのではないか」という無言のプレッシャーを感じているからです。
経営者として、私は「形式知化(マニュアル作成)」を立派な業務時間として認めます。
書く時間は、目先の売上には見えないかもしれませんが、「未来のロスを減らすための投資」です。
と伝え続けることです。
今日10分かけて書いたメモが、来月の後輩の1時間を救います。
その価値を経営者が言葉にして認めることが定着の鍵になります。
4. 「情報の独占」から「情報の共有」へ評価を切り替える
人間は、自分にしかできない仕事を抱え込んだほうが「代えのきかない存在」になれると、無意識に安心を感じてしまうものです。
しかし、形式知化に踏み出した社員に対しては、「情報を出してくれてありがとう。これでチームが楽になるよ」と明確な称賛を送ります。
「属人化させて存在感を示す人」よりも、「自分がいなくても回る仕組みを作った人」を賞賛する。
この価値観の転換を、最初の一週間で徹底的に示し続けます。
組織によっては、称賛するだけでは、すぐにモチベーションが下がるかもしれません。
どこかでインセンティブや、ゲーミフィケーションが必要になる場合もあります。
まずは称賛と感謝の文化から始め、定着度合いを見てインセンティブ制度を検討しましょう。
結論:形式知化は「後に続く仲間への優しさ」
形式知化とは、暗闇を歩く後輩のために、足元に明かりを灯すような「優しさ」の作業だと私は思っています。
最初から巨大な百科事典を作る必要はありません。
まずはこの一週間、小さなメモ書きから始めてみませんか。
その「小さな優しさ」の積み重ねが、一年後、皆さんの会社を「勝手に成長し続ける組織」へと変えるはずです。
【最初の一週間のチェックリスト】
□ 1-2日目:「箇条書きメモでOK」と現場に宣言し、投稿者には感謝を伝える
□ 3-4日目:一つの小さなルーチンを選んで試す
□ 5日目:別の人がそのメモだけで作業してみる
□ 6日目:書く時間を業務時間として認める宣言
□ 7日目:最初に共有した人を全員の前で称賛する
□ (オプション)定着後に、社内ポイント制度などの小さなインセンティブを検討
※インセンティブは金銭だけでなく、以下のような非金銭的報酬も効果的です:
・全社会議での称賛・表彰
・社内ポイント制度(景品交換可能)
・キャリア評価への反映
・ナレッジ共有リーダー認定
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