システムを現場で定着させるには?『使いたくなる』仕組みを設計する6つの鍵

更新:2025年12月23日
「新しいシステムを導入したのに、現場がほとんど使っていない」 「せっかく数百万円かけたのに、Excelに戻ってしまった」
このような悩みを抱えている企業は少なくありません。
システム導入の本当の成功とは、「要件通りにシステムが完成したこと」ではなく、 「現場で定着し、期待通りの成果を上げること」です。
では、なぜ多くのシステムが現場に定着しないのでしょうか?
そして、どうすれば「使いたくなる」システムを実現できるのでしょうか?
しかし、折角作ったシステムを現場で定着させるのは、多くの企業にとって大変な課題になっています。
今までそのシステムが無かったところから、新しい業務習慣を根付かせるわけですから、摩擦が生まれるのは必然です。
特に、単に現場の作業効率が上がるシステムであれば導入はスムーズですが、目的がデータの集計だったり、直接の効率化以外をゴールとするシステムの場合は、導入は簡単ではありません。
今回は、システムを現場で定着させるための「使わせる」から「使いたくなる」仕組みを設計する6つの鍵をご紹介します。
1. なぜ、高額なシステムが「使われない」のか?【現場の本音】
システム定着の最大の壁は、現場がシステムを「自分たちのためのもの」だと感じられない点にあります。
実際、IT導入失敗の原因調査では、「必要なITツールが提供されていない」が73%となっており(※1)、 この課題の深刻さが裏付けられています。
※1 出典:IT整備士協会「社内システム導入実態調査」
現場の論理:
現場に何かしらの恩恵があるということが分からないと、現場は誰も使おうとしません。
データ収集のように、そのシステムのメリットが経営層や他部署に偏っている場合、現場は「自分の仕事の負荷が増えるだけだ」と認識します。
定着の鉄則は、システムが「現場の業務効率向上や成長機会」に直結するよう仕組みを設計することです。
例えばデータ収集を主とするシステムでも、そのデータが現場の皆さんの戦略や判断にどう活かされるかを具体的に示す必要があります。
2. 「使わせる」から「使いたくなる」へ:6つの実践的戦略
システム定着は、精神論や義務感で実現するものではありません。
システム設計と同じくらい「人の動機づけ」を設計する、戦略的な施策が必要です。
【主体性を持たせる仕組み】
① 設計段階でのキーパーソン巻き込み
現場にシステムを「使わされるもの」ではなく、「自分たちが作ったもの」と感じてもらうことが重要です。
■ 具体策:
・設計の段階で現場のリーダーや、最低でも現場のキーになる方々を最初から巻き込むのは必須です。
・当事者意識が生まれることで、導入時の抵抗が大幅に減ります。
■ 期待される効果
・導入時の抵抗が大幅に減少
・運用開始後の改善提案が活発化
② アウトプットを次の工程に必須化
システムへのインプットを、業務プロセス上避けられない状況を作ることで、利用の必然性を生み出します。
■具体策:
そのシステムのアウトプット(集計結果、報告書など)が、次の工程や他部署の業務に必要不可欠な状況を作る。
「インプットがなければ、次の仕事が進まない」という業務上の連動性を設計します。
③ インプットの質を評価と連動
システムを利用するモチベーションを、個人の評価と結びつけます。
■具体策:
入力の質や、システムから算出されるデータを、本人評価や査定に絡めます。
これにより、入力作業が「やらされ感」ではなく、「責任」や「キャリア」に直結し、質の高い利用が期待できます。
【利用のハードルを下げる仕組み】
④ ゲーミフィケーションの導入と「見える化」
システム利用に、楽しみや競争の要素を取り入れ、モチベーションを維持させます。
■ 具体策
入力の完了度やデータの質に応じてポイントやバッジを付与する。
部署ごとのシステム利用率や目標達成率をリアルタイムでランキング表示し、 健全な競争を促します。
■ 期待される効果
・作業のゲーム化により、単調な入力作業が楽しくなる
・可視化により、自身の成長を実感できる
・部門間の健全な競争意識が生まれる
【新規追加:導入効果の実例】
■ 大手製造業での成功事例:三菱電機「Fun Factory」
三菱電機名古屋製作所では、製造現場にアバターシステムやレベルアップ機能を 取り入れた「Fun Factory」を導入。
■具体的な施策:
・作業台のタブレット画面に作業者のアバターとレベルを表示
・作業達成によりレベルアップし、アバターの着せ替えが可能に
・生産台数やサイクル情報をリアルタイムで可視化
■導入効果:
・作業者のモチベーションが20%向上(※2)
・仕事の成果が把握しやすくなり、働く楽しさが増加
・監督者は作業者のスキルが可視化され、適切な人員配置が可能に
・現場のコミュニケーション活性化にも貢献
この取り組みは日本ゲーミフィケーション協会の「ゲミー賞2024」にノミネートされ、 製造業におけるゲーミフィケーション活用の先進事例として注目されています。
※2 出典:ニュースイッチ(日刊工業新聞社)
⑤ 「超速フィードバック」と改善サイクル
システムに入力したデータが、すぐに現場自身に役立つ形でフィードバックされる仕組みです。
■具体策:
営業担当者が顧客情報を入力すると、即座にAIが次のアクションを提案する、あるいは在庫情報を入力した瞬間に現場の棚の不足アラートが届くなど、システム利用が自身の仕事の効率やミスの防止に繋がると実感させます。
⑥ 既存の利用頻度の高いツールとの「シームレスな統合」
現場が毎日使っているツール(チャットやメール)から、システム機能の一部を直接利用できるように統合します。
■具体策:
新しいシステムを立ち上げる手間(ログオン、画面遷移)をなくすため、システムへの入力をチャットツールのコマンドやボットを通じて行えるようにします。
3. 導入後が本番!システムを育てる継続的サポート
システムは「作って終わり」ではありません。
定着を見据えるなら、導入後の定着率や入力データの質をKPIとし、導入後もサポート計画を含めてフォローし続けることが不可欠になります。
4.これら6つの施策すべてを一度に実施するのは現実的ではありません。
以下の優先順位で段階的に導入することをお勧めします:
【フェーズ1:基盤作り(導入前~導入初期)】
必須:① キーパーソン巻き込み
必須:② アウトプットの必須化
【フェーズ2:定着促進(導入後1-3ヶ月)】
推奨:⑤ 超速フィードバック
推奨:⑥ 既存ツールとの統合
【フェーズ3:継続的改善(導入後3ヶ月~)】
効果的:③ 評価との連動
効果的:④ ゲーミフィケーション
特に①②は、後から追加するのが困難なため、 設計段階から必ず組み込んでおくことが重要です。
5.まとめ:システム定着は「設計」できる
システムが現場に定着するかどうかは、運任せではありません。
今回ご紹介した6つの施策を、システム設計の段階から組み込むことで、 「使われないシステム」を「なくてはならないシステム」に変えることができます。
特に重要なのは以下の3点です:
1. 設計段階から現場を巻き込むこと(施策①)
2. システムを使わないと業務が進まない仕組み(施策②)
3. 継続的なフィードバックと改善(施策⑤)
これらは決して「余裕があればやる」ものではなく、 システム導入の成功に不可欠な要素です。
次回は、これらの施策を実際に導入する際の 「最初の1週間で何をすべきか」という具体的な行動計画をご紹介します。
【システム定着化チェックリスト】
導入前に確認すべき10項目:
□ 現場のキーパーソンを特定し、設計段階から参加してもらっている
□ システムのアウトプットが次の業務プロセスで必須になっている
□ 入力データの質を評価する基準が明確になっている
□ ゲーミフィケーション要素(ポイント/バッジ等)を検討している
□ 入力から結果表示までの時間が最小化されている
□ 既存の利用頻度の高いツールとの統合を検討している
□ 定着率をモニタリングするKPIが設定されている
□ 導入後のサポート体制が明確になっている
□ 段階的な機能展開のロードマップがある
□ 成功事例を共有する仕組みがある
5つ以上チェックが付かない場合は、導入計画の再検討をお勧めします。
【参考文献】
・マイナビニュース「三菱電機が挑むゲーミフィケーションによる 生産現場のモチベーション向上」(2024年7月)
・三菱電機公式サイト「仕事をしながらアバターを育てる!? 三菱電機が取り組む働き方『Fun Factory』」
・日本ゲーミフィケーション協会「ゲミー賞2024」
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現場で使われるシステムを実現した実績について:
• 【愛知の自動車製造業様】不良品可視化システム開発|他社システム改修プロジェクト
https://trans-it.net/works/post_49.html
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• 【愛知の製造業様】稼働状況可視化システム構築|手入力排除とリアルタイム管理を実現
https://trans-it.net/works/post_57.html
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