Blog & News

2026.01.14

生成AIが問いかける『知性』の正体(2) ~AIには到達できない「確率を超える」3つの判断~

生成AIが問いかける『知性』の正体(2) ~AIには到達できない「確率を超える」3つの判断~

第1部では、AIと動物が「確率」という共通原理で動いていることを見てきました。
では、人間の知性は本当に確率を超えているのか?

この問いに答えるため、私の30年のエンジニア経験から、「確率では説明できない判断をした瞬間」を3つ紹介します。
これらは、どれだけAIが進化しても、人間が優位性を保ち続けられる領域です

■ケース1:帳票システムの「見えない欠点」 数字が合わない帳票群
1998年、私が担当した基幹システムで、深刻な問題が発覚しました。
本来一致すべき数字が、帳票ごとに微妙にズレていたのです。
顧客からのクレームは日に日に増え、チームは疲弊していました。

チームの判断:個別プログラムを修正
調査の結果、各帳票の集計ロジックに問題があることが判明。
チームの結論は「各プログラムの計算式を一つずつ修正する」ことでした。
これは過去の成功パターンに照らせば極めて合理的です。
もしAIに過去の類似ケースのデータを学習させれば、高い確率で『個別修正』という選択肢を推奨したでしょう。
しかし、そこには『見えない構造的欠陥』という視点が欠けていました。

私の直感:「構造そのものが間違っている」
しかし、ソースコードを見ながら、私は強い違和感を覚えました。
問題の本質は、各プログラムが個別に1次データを加工している「設計(アーキテクチャ)」そのものにありました。
私は提案しました。
「信頼できる単一のデータソースを作り、すべての帳票をそこから出力するよう、根底から作り直しましょう」

結果:数字はピタリと一致した
大幅改修の結果、数字は完璧に一致し、その後の保守性は劇的に向上しました。
ここでの鍵は、部分の修正という確率的な正解ではなく、全体を俯瞰する「構造的思考」でした。
後日、当時のリーダーがポツリと「本質が見えてしまえばあんなに簡単なことだったのに、なぜあの時は気づけなかったんだろう」と漏らしていたのが印象的でした。
それほどまでに、目の前の不具合に追われていると、構造という本質は見えなくなるものなのかもしれません。

■ケース2:なぜユーザーは「イベント削除」を繰り返すのか?
・謎のイベント削除が頻発
あるイベント管理システムで、参加者による「イベント削除」が頻発しました。
データだけを見れば、「誰でも削除できる権限」が原因であり、解決策は「権限の厳格化」や「確認ダイアログの強化」一択に見えました。

私の推理:「彼らはメールを止めたかっただけ」
しかし、私はユーザーの行動の裏にある心理を想像しました。
「なぜ消すのか? その瞬間、彼らは何を考えているのか?」
そこで降りてきた答えは、「彼らはイベントを消したいのではなく、自分に届く通知メールを止めたかっただけ」という、システム設計者との認知のズレでした。

・たった一行の文言が、すべてを変えた
削除ボタンの横に、「イベントそのものが削除されます。管理者のみ実行してください」という一文を追加しただけで、誤削除は一切なくなりました。
AIは膨大なデータから『何が起きたか』を分析し、統計的に『ユーザーの動機』を推測することもできます。
しかし、目の前の一人のユーザーの心情を、その場の文脈と共に『感じ取る』という、人間が持つ直感的な共感力には到達できません

■ケース3:「採算が合わない」プロジェクトを引き受けた理由
誰もが敬遠する「地雷案件」
他社に断られ続けたという大規模団体のリプレイス依頼。
見積工数は大幅に予算を超え、仕様書も存在しない。
冷徹に計算すれば、赤字のリスクが極めて高い案件でした。
短期的な損益計算だけに基づけば、AIは高い確率で『辞退』を推奨したでしょう。

私の決断:引き受ける
しかし、私は「自分たちならやり遂げられる」という現場の確信と、「この先の信頼」という無形資産の価値を直感しました。
これは、数字には表れない『無形の価値』を判断する、人間特有の能力です。

結果:20倍のリターン
プロジェクトを完遂したことで絶大な信頼を獲得し、その後の紹介案件を含めた総受注額は当初の見積もりの20倍に達しました。
AIは「今」の損益しか見ませんが、人間は「今」と「未来」を天秤にかけ、確率を無視して「戦略的直感」で未来に賭けることができます。

人間だけが持つ「3つの知性」
3つの事例を振り返ると、AI(確率)にはできない、人間だけの領域が浮かび上がってきます。

1. 構造的思考(帳票システムの事例より)
部分の修正に逃げず、全体を俯瞰して「根本的な原因」を特定する力。

2. 共感的推理(イベント削除の事例より)
データには表れない「ユーザーの感情」や「認知のズレ」を想像し、本質的な解決策を導く力。

3. 戦略的直感(採算案件の事例より)
短期的なリスクや損失を受け入れ、長期的な「信頼」や「未来」の価値を信じて決断する力。

まとめ:確率を超えよ
AIは皆さんに「答え」を与えますが、「問い」を立て、最後に「決断」を下すのは皆さん自身です。
データが見えない構造を見抜き、他者の心に共感し、未来に賭ける。
これこそが、どれだけAIが進化しても変わることのない、人間だけの領域です。

次回予告:第3部「確率依存からの脱却」
では、この「確率を超える知性」をどう鍛えるのか?
組織を「AIに依存する側」から「AIを使いこなす側」に変える、5つの具体的なステップを紹介します。

【関連記事】
人間の判断力とAIの本質的違い:

• 生成AIが問いかける『知性』の正体(1)~なぜAIの思考は動物に似ているのか~
https://trans-it.net/news/post_108.html
本記事の第1部。AIと動物が「確率」で動く仕組みを解説し、人間の知性との根本的な違いを問いかける

• 揺るぎない羅針盤:「原理原則」、それが成功への最短ルート
https://trans-it.net/news/post_98.html
確率的判断ではなく、原理原則に基づく意思決定の重要性を論じ、ブレない経営判断の軸を示す

経営判断における人間固有の能力:

• 【宇宙文明レベルで測る】ビジネスマン進化論:顧客理解の4段階
https://trans-it.net/news/post_95.html
データを超えた顧客理解の深化段階を解説。共感的推理と構造的思考の実践例を示す

• 赤黒ゲームで得た教訓:相互信頼をどう構築するか?「信頼残高」を積み上げるための思考
https://trans-it.net/news/post_107.html
短期的損得を超えて長期的信頼を築く戦略的判断。ケース3「採算案件」の判断基準と共通する思考法を展開

無料:IT課題の本質を見抜く相談

一覧へ戻る

Contact

システムやセキュリティに関する不安やご相談はこちらから。他社で断られた案件、まずはご相談ください。

お電話からのお問い合わせ

052-228-6443

受付時間/10:00~18:00(土日祝休)